DOCI 2026の業種別の結果は、何を示しているのか
DOCI 2026で因果の道筋まで書いたTOPIX100企業の割合は、5社以上の8業種で57%〜14%(暫定値)でした。
DOCI 2026は、株式会社DroRと臨床組織科学研究会が2026年7月5日に公開した年次調査です。TOPIX100各社の有価証券報告書3期分(FY2023〜2025、299書類・296テキスト)の人的資本の記載を、施策の記述(D1)、方針の表明(D2)、指標との連動(D3)、構造・因果の記述(D4)の4つの観点で、0〜3の帯に分けて評価しました。本稿で扱うのはD4で、「いかにして成果を生むか」の因果の道筋が書かれているかを見ます。帯2以上、つまり施策と成果の間で何が起きるか(媒介)まで書かれた開示を「到達」と数え、本稿ではこれを「因果の道筋まで書いた」と呼びます。業種は、EDINETのコードリスト(33業種)で対象100社すべてを照合して割り当てています。FY2025に有価証券報告書を提出した99社は、25業種にまたがっていました。
同じFY2025のD4到達率は、規模区分で分けるとCore30(大型30社)で40%(12/30社)、Large70(中大型70社)で41%(FY2025に提出した69社のうち28社)と、ほとんど同じでした。帯2以上の企業と帯1以下の企業で、従業員数の中央値も4.2千人と3.9千人で差がありません。レポートはこれを、業種別のレンジ(57%〜14%)と並べて「差は業種に出る」と整理しています(図表17)。ただし、業種別の結果そのものは、レポート自身が「各業種は小Nのため仮説の水準」と位置づけています(図表18の注)。
下の表は、5社以上が属する8業種のD4到達率です(レポート図表18)。右の2列は、本稿で社数と割合から計算した値です。「1社が動かす幅」は、その業種で1社の到達・未到達が変わったときに、割合が何ポイント動くかを示します。
| 業種 | 社数 | D4到達率 | 到達した社数(本稿の計算) | 1社が動かす幅(本稿の計算) |
|---|---|---|---|---|
| 輸送用機器 | 7社 | 57% | 4社 | 約14ポイント |
| 機械 | 6社 | 50% | 3社 | 約17ポイント |
| 化学 | 7社 | 43% | 3社 | 約14ポイント |
| 情報・通信業 | 5社 | 40% | 2社 | 20ポイント |
| 電気機器 | 18社 | 39% | 7社 | 約6ポイント |
| 銀行業 | 6社 | 33% | 2社 | 約17ポイント |
| 卸売業 | 5社 | 20% | 1社 | 20ポイント |
| 医薬品 | 7社 | 14% | 1社 | 約14ポイント |
業種の差は、偶然でも起こりうる大きさなのか
本稿の計算では、偶然でも起こりうる大きさでした。業種による違いがなくても、今回の程度の開きは約8割の確率で生じます。
本稿で次の計算をしました。8業種の61社のうち、到達した企業は23社(約38%)です。この23社の「到達」を、業種と関係なく61社にくじ引きのように割り振り直したと考え、起こりうる割り振り方のすべてについて業種ごとの割合を出し直しました。最も高い業種と最も低い業種の差が、今回の約43ポイント(57%と14%)以上になる割り振り方は、全体の約8割(79%)でした。8業種の割合のばらつき全体を見るカイ二乗統計量で同じ計算をしても、p値は約0.8です。
両端の輸送用機器(7社中4社)と医薬品(7社中1社)には3社分の差があり、両方で1社ずつ評価が動いても逆転はしません。それでも、この2業種だけを比べるフィッシャーの正確検定(両側)のp値は約0.27で、業種による違いがなくても、この程度以上の差はおよそ4回に1回生じます。偶然とみなさない目安としてよく使われる0.05も、大きく上回ります。しかもこの2業種は、結果を見てから最も離れた組として選んだもので、差を大きめに見る側に偏った比べ方です。
隣り合う業種の順番は、さらに不確かです。輸送用機器の57%(7社中4社)と機械の50%(6社中3社)の差は7ポイントで、輸送用機器で1社が到達でなくなれば43%になり、順番は逆になります。情報・通信業の40%と電気機器の39%の差は1ポイントで、電気機器で1社が帯2以上に上がれば44%になります。8業種を到達率の順に並べたとき、隣り合う7つの組のどれでも、下の業種で1社が到達すれば順番が入れ替わることを、本稿で確かめました。
偶然で説明できることは、業種による違いがないことの証明ではありません。1つの業種が5〜18社では、違いがあっても見分けられない、というのが正確な読み方です。計算の前提は、FY2025の1年分、D4の帯(AI支援の一次コーディングによる暫定値)、到達か否かの2区分です。人による独立評定で一部の帯が変われば、値も並び順も変わりえます。レポートに検定はなく、ここでの値はすべて本稿の計算です。
社数が5社未満の業種では、割合はさらに大きく動きます。全25業種の表(付録C 図表A3)には到達率100%の業種が4つ、0%の業種が7つありますが、いずれも1〜3社の業種です。1社だけの業種の100%や0%は、その1社の評価そのものです。業種の傾向としては読めず、個々の会社の評価を推し量る材料にもなりうるため、本稿では業種名を挙げていません。
| 確かめたこと | 本稿の計算 | 読み方 |
|---|---|---|
| 8業種全体 | 違いがないとして到達23社を割り振り直すと、79%の割り振り方で43ポイント以上の差。カイ二乗統計量で同じ計算をするとp値約0.8 | 偶然と見分けられない |
| 両端(輸送用機器と医薬品) | 7社中4社と7社中1社。フィッシャーの正確検定(両側)でp値約0.27 | 偶然でも起こりうる差 |
| 隣り合う業種の並び順 | 7組すべてで、下の業種で1社が到達すれば順番が入れ替わる | 並び順は読めない |
| 1〜3社の業種 | 到達率100%が4業種、0%が7業種 | 業種の傾向としては読めない |
レポートの「差は業種に出る」と、本稿の読みは食い違うのか
食い違いません。レポートは業種別に開きが出たという観察を示し、本稿はその開きの確かさを社数から計算しました。
レポートは、規模区分ではD4到達率がほぼ同じ(40%と41%)で、業種別に分けると57%〜14%の幅が出たことを、「差は業種に出る」と整理しました(図表17)。これは、どの切り口で数字が開いたかの記述です。同じレポートは、業種別の結果を「各業種は小Nのため仮説の水準」とし、本文の業種別の図を5社以上の業種に限り、全25業種の表を「小N注意」として付録に置いています。
本稿の計算は、この「仮説の水準」がどの程度かを、社数から確かめたものです。今回のデータからは、規模区分でも業種でも、因果の道筋の書き方をはっきり分ける切り口は見えていません。業種による違いがあるかどうかは、次の版でも同じ業種に同じ傾向が続くか、人による評定で確定した値でも同じかで確かめることになります。レポートも、業種ごとの深掘り分析を今後追補するとしています(p.49)。
業種で比べるより、何を見ればよいのか
業種の割合と比べるより、自社と同業数社の文章に、施策と成果の間で何が起きるかが書かれているかを読むほうが役立ちます。
業種の割合は5〜18社をまとめた数字で、偶然でも大きく動き、同じ業種の中にどんな書き方の幅があるかは教えてくれません。DOCIは個社ごとの判定を公表していないため、5社以上の業種では、どの会社がどう書いて到達したかも割合からは分かりません。文章を実際に読むと、その幅が見えてきます。
見分けるときの目安は、帯1と帯2の違いです。DOCI確認シートの観点4の表は、帯1の例に「対話を増やすことで、組織が活性化する」のように、施策と成果の向きは示すが途中で何が起きるかがない文を挙げています。帯2の例は「心理的安全性が失敗の共有を促し、それが学習につながる」のように、途中で何が起きるか(媒介)まで書かれた文です。どちらもシートが説明用に挙げた架空の文で、特定の企業の記載ではありません。
読むときは、次の順で進めるのが手早いと考えています。
- 同業の数社を選び、有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」のうち、人材育成方針・社内環境整備方針にあたる部分を読む。
- 主な施策について「なぜ効くのか」を書いた文を探す。「〜ため」「〜ことで」と向きを示すだけか(帯1の目安)、施策と成果の間で何が起きるかまで書いているか(帯2の目安)を見る。
- 同業どうしでよく似た言い回しに印をつける。その言い回しが、施策と成果の間で何が起きるかまで書いているかを確かめる。
- 自社の主な施策について、途中で何が起きるかを一文で書いてみる。同業の言い回しをなぞっただけの文になっていないかを見る。
同業と言い回しが似ているのは、問題なのか
似ていること自体は問題ではありません。見るべきは、似た文の中に自社固有の因果の道筋が書かれているかどうかです。
同じ制度のもとで同じ欄を書く以上、共通の言い回しが出てくるのは自然です。DOCIのD4(確認シートの観点4)で見ているのも、言い回しが独自かどうかではなく、施策と成果の間で何が起きるかが書かれているかどうかです。同業と似た言い回しでも、その中で自社の施策がどう成果につながるかを書いていれば、D4の観点では因果の道筋が書かれていると読めます。なお、方針の表明(D2)では、人材についての考え方が自社固有の言葉で書かれているかを見ます。
反対に、同業の言い回しをなぞった結果、自社の施策が「なぜ効くのか」を書けない場合があります。そのときは、文章に書いていないだけなのか、社内でもまだ言葉になっていないのかを、施策の担当者に確かめてください。後者であれば、開示の文章を整える前に、施策と日々の仕事のつながりを確かめるところから始めます。
DOCI確認シートとは、どうつなげて使えばよいのか
確認シートで自社の文章を4つの観点で点検し、そのうち観点4(因果の道筋、D4と同じ)を物差しに同業を読む順で使えます。
DOCI確認シートは、2026年10月8日に公開した記入式のシートです(PDF・A4 2ページ・無料・CC BY 4.0)。有価証券報告書の人的資本の記載を、DOCIと同じ4つの観点で読み直し、当てはまる箇所を書き出して、0〜3の帯の目安を自分で選びます。シートで自分で選んだ帯は自己点検の目安で、DOCIの判定とは別のものです。業種の到達率と並べて自社の位置を読むことはできません。本稿の読み方と組み合わせると、次の流れになります。
- 確認シートで自社の文章を点検し、4つの観点それぞれの帯を自分で選ぶ。
- 同業の数社の文章を、観点4の目安(帯1と帯2の違い)を物差しにして読む。
- 自社と同業で書き方が違った点を、シートの「ふりかえり」欄の「社内で確かめたいこと」に書き、施策の担当者に確かめる。
業種別の結果を引用するとき、何に気をつけるか
暫定値であること、社数が少なく偶然でも起こりうる差であること、因果や優劣を示さないことを、数字と一緒に書いてください。
業種別の結果を社内資料や記事で使うときに、添えておきたい点は次のとおりです。
- D4の帯は、AI支援の一次コーディングによる暫定値です。本文テキストの一次判定はAIが行い、企業名・年度は伏せていません。人による独立評定は、企業名などの表記を伏せたテキストで行い、評定者間の一致度(信頼性係数κ)の報告をもって確定する予定です。
- 1つの業種に入る企業は最大でも18社(電気機器)です。レポートは業種別の結果を仮説の水準とし、本稿の計算では、5社以上の8業種の差も偶然でも起こりうる大きさです。検定の値は本稿の計算で、レポートにはありません。
- DOCIは開示の書き方を記述したもので、業種の違いが書き方の違いを生んでいるとは主張しません。組織の実態や、業種・企業の優劣を示すものでもありません。
- 個社ごとの判定データは公表していません。1〜3社の業種の割合は、業種の傾向ではなく個々の会社の評価に近い情報です。引用は5社以上の業種にとどめてください。
- 業種別の集計はFY2025の1年分です。レポートに業種別の表があるのは、D4到達率と女性管理職比率の中央値で、D1〜D3の業種別の集計はありません。