エグゼクティブサマリー
施策は標準装備になった。構造は、まだ語られていない。 ――2026年版の要旨は、3つの数字に集約されます。
01 — 施策は広く語られるが、構造はほとんど語られない
施策記述(D1)の到達は99%。一方、構造・因果(D4)は40%にとどまります。施策を体系的に語る企業の59%が、「なぜ効くのか」の因果を一段も掘り下げていません(D4帯1以下)。
02 — 因果まで語る開示は、なお例外である
多段の因果(D4帯3)に到達した開示は、FY2025でわずか1%(99社中1社)。3期・296テキストを通じても4件・2社のみです。
03 — 開示は増え、そして互いに似てきた
開示の文量は3年で中央値43%増。しかし他社間の類似度は0.498から0.544へ上昇し、前年と「ほぼ同文」の年次更新は75%に達しました。量は増えても、語りは互いに似通ってきています。
数値ハイライト
本分析が生んだ一次数値です。定量指標は開示された実数値(EDINET・XBRL・開示PDFとの突合済み)、定性の帯・類型は語りの構造の評価であり、両者は分けて示しています。
| 数値 | 内容 |
| 299/300 | docID解決(3期×100社。残る1件は当該年度の有報未提出を確認済み) |
| 296 | 分析対象テキスト |
| 99% | D1(施策記述)到達・FY2025 |
| 40% | D4(構造・因果)到達・FY2025 |
| 4/296 | D4帯3(多段の因果)・3期合計 |
| 45% | 静的更新(2024→2025で「ほぼ同文」) |
| 9.6% | 女性管理職比率・中央値(FY2025) |
| +6.7% | 平均年間給与・3年変化(中央値) |
※ 定性の帯・類型はAI支援の一次コーディングを基礎とした暫定値です。複数の人間コーダーによる独立検証と信頼性係数(κ)の報告をもって確定し、数値は今後の検証で更新される可能性があります。
DOCIは何を測るか
着目したのは、開示の量ではなく「深さ」です。実施した施策を列挙するにとどまるのか、それとも成果に至るまでの因果の構造まで説明できているのか。この深さを、4つの次元で段階的に評価しました。
D1との段差は59pt ― 施策を語れることは、構造を語れることを保証しない。出所:DOCI 2026(株式会社DroR/臨床組織科学研究会)
| 次元 | 見るもの | 到達率(帯2以上・FY2025) |
| D1 施策記述 | 具体的な打ち手・制度・プログラムが特定されているか | 99% |
| D2 方針表明 | 人材への信念・哲学が自社固有の言葉で語られるか | 92% |
| D3 指標連動 | 語りが定量指標・目標と接続しているか | 85% |
| D4 構造・因果 | 「いかにして成果を生むか」の因果メカニズムが語られるか | 40% |
各次元は0〜3の帯で独立に採点します(帯2=明確・具体的、帯3=多段・自己強化的)。評価は3期×100社=296テキストを、企業名・年度を伏せて一括で行いました。D1とD4の相関は中程度(Spearman 0.50)――施策を語れることは、構造を語れることを保証しません。
主要な発見
FY2025の帯分布(D4 構造・因果)
帯0(命名のみ)11社 / 帯1(一段因果)48社 / 帯2(媒介の明示)39社 / 帯3(多段・自己強化)1社。因果を語らない帯0〜1が59社=約6割を占めます。
- 帯0 命名のみ11社
- 帯1 一段因果48社
- 帯2 媒介の明示39社
- 帯3 多段・自己強化1社
SURFACE(施策・状態の記述)から DEEP(多段の因果)へ。出所:DOCI 2026(株式会社DroR/臨床組織科学研究会)
最頻の型は「D4だけが一段低い」
頻出プロファイル第1位は D1:3 / D2:2 / D3:2 / D4:1(18社)。施策は体系的に語れているのに、因果だけが一段浅い――「あと一歩」は、因果の言語化です。
深まりの兆しはある
D4帯2(媒介の明示)は3期で17→30→39社と増加しました。一方、帯3(多段・自己強化)は2→1→1件と、ほとんど現れないままです。
語りと数値は、別のレイヤーで動く
D4帯2以上の企業群と帯1以下の企業群で、女性管理職比率の中央値はほぼ変わりません(8.9% vs 10.0%・記述的)。「語りの深さ」は数値報告の副産物ではなく、独立に観察する価値のあるレイヤーです。
経営者への4つの問い
DOCIが測ったのは大手100社の「語り」ですが、この4つの問いは企業規模を問いません。自社の開示・自社の組織説明を、構造軸で読み直すための問いです。
- 施策の列挙で終わっていないか
- 方針は自社固有の言葉で語られているか
- 指標は施策・方針と接続しているか
- 因果の連鎖――「なぜ効くのか」を一文で書けるか
書けない部分は、まだ設計されていない部分かもしれません。開示の語りを整えることではなく、語れる構造を組織の中につくること――DroRはこれを臨床組織科学(COS)として実践しています。自社の開示・組織説明を構造軸で読むとどうなるか、初回相談(無料)でお聞かせください。
方法と限界
データ基盤は、EDINETに提出されたTOPIX 100各社の有価証券報告書(FY2023〜2025)です。910営業日の提出日を全走査して299/300件を特定し、数値はすべて原典(XBRL・開示PDF)と突合、業種は公的コードリストで100社全社を照合しています。本文テキストは企業名・年度を伏せたうえで評価しました。
同時に、この分析がしないことを明記します。
- 経年の記述であり、因果を主張しません
- 分析視点のCOSは一つのレンズであり、開示の優劣を判定しません
- 見ているのは「語り方」であり、組織の実態そのものではありません
- 定性の帯・類型はAI支援の一次コーディングが基礎です。複数コーダーの独立検証と信頼性係数(κ)の報告を進めており、数値は更新される可能性があります
- FY2023は開示テキストが系統的に短く、経年比較には文量差の交絡が含まれます
4次元の操作的定義・帯の判定基準はコードブックとして公開可能な形で整備しており、より詳細な方法資料・データブックは照会に応じて提供します。方法・定義を変えずに版を更新するため、過去版との比較可能性が保たれます。
本レポートの引用について
本レポートはオープンアクセスで公開しています。報道・研究・社内資料での引用の際は、次の表記をご利用ください。
株式会社DroR/臨床組織科学研究会(2026)『DOCI 2026 — 人的資本開示の構造分析:施策列挙から、構造設計へ』https://dror.co.jp/lab/doci
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理論基盤
DOCIの分析フレーム(4次元・帯の設計)は、査読を経て公開された臨床組織科学(COS)の理論枠組みに基づいています。
Yamanaka, M., & Nakamori, M. (2026). Clinical Organizational Science: An Integrative Framework for Structural Intervention in Complex Organizations. Frontiers in Psychology, 17.
調査主体・監修
本調査は、株式会社DroR(研究実践ファーム)と臨床組織科学研究会が実施・作成しました。
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