DroR Laboratory RESEARCH & FIELD NOTES

DroR Laboratory記事

構造への介入

組織図を変えても、組織が変わらないのはなぜか

組織再編は、構造改革の代名詞のように扱われます。しかし箱と線を描き直しても、数ヶ月後には以前と同じ動き方に戻っている——多くの経営者が経験するとおりです。組織図が変えられるのは公式の枠組みであり、行動を生んでいる日々の相互作用は、それだけでは変わりません。本稿では、再編が空振りする理由と、組織図と一緒に設計すべきものを整理します。

なぜ組織再編の効果は続かないのか

再編の効果が続かない最大の理由は、組織図が変えられるのは公式構造だけだからです。行動を毎日生み出しているのは、会議の設計、情報の流れ、役割の境界、関係性といった相互作用の構造であり、箱と線を描き直してもこれらは自動では変わりません。

公式構造が変わっても相互作用が同じなら、組織は数ヶ月かけて、新しい組織図の上で以前と同じ動き方を再現します。

組織図が変えられるもの、変えられないものは何か

再編を設計する前に、組織図というレバーの射程を確かめておきます。

観点組織図で変わるもの組織図だけでは変わらないもの
構造報告線・部門の枠・責任の名目実際の情報の流れ・非公式の相談経路
意思決定決裁権限の建て付け誰に聞けば決まるかという現実の経路
行動所属とレポート先会議の進み方・フィードバック・日々の習慣
関係性公式の隣接関係信頼・貸し借り・過去の経緯

組織設計とは、何の設計なのか

組織設計論の古典でガルブレイスが示したとおり、組織設計の本質は情報処理の設計です。不確実性が高い仕事ほど、処理すべき情報が増え、部門間の調整が必要になります。箱の配置は、その調整をどこで行うかの選択にすぎません。

ミンツバーグが整理したように、組織の調整には相互調節・直接監督・標準化などの複数のメカニズムがあり、どの箱割りを選んでも、箱と箱のあいだの調整のしかたを設計しなければ機能しません。再編の失敗の多くは、箱を変えて調整を設計しないことから生まれます。

再編の後、現場では何が起きているのか

再編直後の現場では、旧経路の温存が起きます。新しい上司より前の上司に相談する、正式ルートより顔見知りに直接聞く——人は、答えが返ってくると分かっている経路を使い続けます。これは抵抗ではなく、仕事を止めないための合理的な行動です。

旧経路が使われ続けるほど、新しい構造には情報が流れず、「再編したのに何も変わらない」という実感が双方に積み上がります。

組織図と一緒に、何を設計すべきなのか

再編を機能させるには、新しい箱割りに合わせて、相互作用の構造をセットで作り替えます。

  • 会議体:新しい単位での意思決定の場・参加者・アジェンダを設計し直す
  • 役割の境界:部門間で責任が重なる領域・空白になる領域を明示的に埋める
  • 情報の経路:判断に必要な情報が新しい構造の中で流れる道をつくる(旧経路の役割を計画的に移す)
  • 評価:新しい構造で期待する行動が、評価に反映されるよう更新する

では、組織再編はいつ有効なのか

再編そのものが無意味なわけではありません。事業の構造が変わったとき(複数事業化、地域展開、機能の肥大化)、公式構造を現実に合わせることは必要な打ち手です。

有効になる条件は、再編を単発のイベントではなく、会議体・役割・情報経路・評価を含む一連の構造改編の起点として扱うことです。箱の変更は最初の一手であって、最後の一手ではありません。

現場では、どう進めるのか

進め方の要点は、紙の上の設計と並行して、情報の実際の流れを観察することです。再編後、誰が誰に聞いているか、どの決定がどこで滞っているかを見れば、設計と現実のずれが具体的に分かります。

DroRは、組織図の設計そのものより、その下で動く相互作用の構造——会議体・役割・情報とフィードバックの経路——の再設計を伴走します。臨床組織科学(COS)の見方では、組織図の変更は介入の入り口であり、変化が残るかどうかは相互作用の構造が決めます。

よくある質問

組織再編は意味がないのですか。
意味はあります。事業構造の変化に公式構造を合わせることは必要な打ち手です。ただし組織図の変更単体では相互作用は変わらないため、会議体・役割の境界・情報経路・評価とセットで設計したときに初めて機能します。
再編の効果は、どのくらいで見えますか。
公式構造の変更は即日ですが、情報の流れと行動が新しい構造に移るには数ヶ月単位の移行期間が必要です。移行期に旧経路の温存を観察し、計画的に役割を移すことで、この期間を短くできます。
事業部制と機能別組織、どちらが良いですか。
唯一の正解はなく、事業の数・市場の違い・必要な専門性の深さによって最適は変わります。どちらを選んでも、部門間の調整のしかた(会議体・役割の境界・情報経路)の設計が伴わなければ機能しない点は共通です。
頻繁な再編は問題ですか。
再編のたびに関係性と情報経路がリセットされるため、移行が終わる前に次の再編が来ると、組織は恒常的な移行状態になり、旧経路への依存がむしろ強まります。再編は頻度より、一回ごとに相互作用の再設計まで完了させることが重要です。
30人規模の会社にも関係ありますか。
あります。むしろ小規模ほど、箱を変えるだけでは何も変わらないことが早く露呈します。拡大期の組織では、組織図より先に、役割の境界と会議体・情報経路を明示的に設計することが効きます。

参考文献

本稿の見方は、次の研究・実務知に多くを負っています。

  1. Galbraith, J. R. (1973)『Designing Complex Organizations』Addison-Wesley. 組織設計を情報処理の設計として捉えた古典。
  2. Mintzberg, H. (1979)『The Structuring of Organizations』Prentice-Hall. 組織の調整メカニズム(相互調節・直接監督・標準化)を体系化した組織設計論の基本書。
  3. Yamanaka, M., & Nakamori, M. (2026)「Clinical Organizational Science: An Integrative Framework for Structural Intervention in Complex Organizations」Frontiers in Psychology, 17. 行動を再生産する構造への介入を体系化した概念論文。本稿の理論的背景。 参照日:2026-07-02

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