DroR Laboratory RESEARCH & FIELD NOTES

DroR Laboratory記事

組織と経営

離職の原因が分からないとき、何から調べるべきか

離職が続いているのに、原因がはっきりしない——このとき多くの組織は、退職理由の聞き取りと引き止め策から始めます。しかし退職者が語る理由は角が立たない形に整えられやすく、聞き取りの集計だけでは原因にたどり着けないことが少なくありません。本稿では、調べる順番を「分布→観察→仮説→介入」として整理し、最初の一週間で何をすべきかまで具体化します。

なぜ、退職理由を聞いても原因にたどり着けないのか

退職者が語る理由は、関係を壊さないよう角の立たない形に整えられやすく、そのまま集計しても原因の構造を映さないからです。「家庭の事情」「キャリアアップ」という表明の下に、負荷の偏りや意思決定の詰まりが隠れていることは珍しくありません。

もう一つの限界は、聞き取りが「個人の理由」の集合になることです。一人ひとりの事情を足し合わせても、それらを生み出している共通の構造——役割の曖昧さ、情報の流れ、負荷の集中——は見えません。原因調査の出発点を、語られた理由ではなく観察できる事実に置き直す必要があります。

原因を絞り込むには、まず何を見ればよいのか

最初に整理すべきは、退職理由ではなく退職の分布です。手元の人事データだけで、原因が潜む場所を大きく絞り込めます。

具体的には、過去1〜2年の退職者について、次の4つの軸で並べます。特別な調査は不要で、多くの組織では数日で整理できます。

  • 勤続年数:入社半年以内に集中しているか、3年目前後か、ベテラン層か
  • 部署・チーム:特定のマネジャーの配下や、特定の機能に偏っていないか
  • 評価・活躍度:高い評価を受けていた人が辞めているか、そうでないか
  • 時期:組織変更・制度変更・増員などの出来事と、退職の時期が重なっていないか

退職の分布からは、どんな仮説が立つのか

分布のパターンごとに、疑うべき構造はある程度決まっています。ここで初めて「仮説」を立てられる状態になります。

分布のパターン疑うべき構造の仮説
入社半年以内に集中受け入れの構造。役割定義・期待のすり合わせ・最初の学習経路が設計されていない
特定の部署・チームに集中その単位のマネジメント負荷・会議体・意思決定の詰まり。個人の資質より先に構造を見る
高評価者から辞めていく負荷と期待の集中。仕事ができる人に業務が集まり、裁量と学習機会が追いつかない
3年目前後に集中学習機会の枯渇とキャリア経路の不在。「この先の成長」が描けない構造
組織変更の後に増加変更で切れた情報の流れ・曖昧になった役割。変更そのものではなく残された空白が原因のことが多い

数字の次に、何を観察するのか

分布は原因のある場所を教えてくれますが、そこで何が起きているかまでは教えてくれません。次の段階は、絞り込んだ場所の構造観察です。

観察の対象は、個人の感情や意欲ではなく、仕組みとして確認できるものです。誰に仕事と相談が集まっているか。会議で何が決まり、何が持ち越されているか。役割の境界はどこが曖昧か。新しく入った人は、最初の3ヶ月で誰から何を学べる設計になっているか——こうした事実の観察は、聞き取りよりも原因に近づきます。

DroRでは、本格的な支援の前にこの段階を「観察フェーズ」(数週間〜2ヶ月)として独立させています。最初から大掛かりな変革を前提とせず、まず構造を読むことから始められるためです。

施策は、いつ打つべきなのか

施策は、分布と観察から仮説が立ったあとに打つべきです。順番を守ること自体が、成功率を左右します。

原因が分からないまま打たれた施策——一律の待遇改善、面談の増設、新しい制度——は、外れた場合にただ効かないだけでは済みません。「会社は何かをやったが、何も変わらなかった」という経験が積み重なり、次の施策への信頼を下げます。臨床組織科学(COS)が組織変革を「行動変容のプロジェクト」ではなく「構造への介入」として捉え直すのは、この施策疲れの構造を断つためでもあります。

調べる順番は「分布の整理(数日)→構造の観察(数週間)→仮説→小さく介入→検証」です。遠回りに見えますが、外れた施策のやり直しよりも速く、組織の信頼を消費しません。

よくある質問

退職面談(イグジットインタビュー)は無意味ですか。
無意味ではありませんが、単独では原因にたどり着きにくい方法です。語られる理由は関係を壊さない形に整えられやすいためです。面談は「分布の整理」「構造の観察」と組み合わせ、語られた理由と観察された事実のずれ自体を情報として扱うと有効になります。
離職率が何%を超えたら問題だと考えるべきですか。
一律の閾値はありません。産業別の平均は厚生労働省の雇用動向調査で公表されており、自社の水準を比べる出発点にはなります。ただし原因の特定に役立つのは全体の率よりも分布です。率が平均以下でも、高評価者や特定部署に偏って辞めているなら、構造的な問題が進行している可能性があります。
入社半年以内の早期離職が多いのは、何のサインですか。
採用のミスマッチが連続したと考える前に、受け入れの構造を疑うべきサインです。役割の定義、期待のすり合わせ、最初の3ヶ月の学習経路が設計されていない場合、誰を採用しても同じ場所でつまずきます。採用基準の見直しより先に、入社後の構造を観察することをおすすめします。
エンゲージメントサーベイをやれば原因は分かりますか。
サーベイのスコアは組織の状態を示しますが、その状態を生んでいる構造までは示しません。スコアが低い部署が分かっても、なぜ低いのかは観察しなければ分かりません。サーベイは分布の整理を補う道具として使い、原因の特定は構造の観察で行う、という役割分担が現実的です。
原因の調査には、どのくらいの期間がかかりますか。
分布の整理は、手元の人事データがあれば数日で可能です。その先の構造の観察は、組織の規模にもよりますが数週間〜2ヶ月が目安です。DroRではこの段階を観察フェーズとして独立させており、本格的な変革の契約を前提とせずに始められます。
従業員数が少なく、統計的な分析ができません。それでも分布は見るべきですか。
見るべきです。人数が少ない組織では、統計ではなく一人ひとりの経緯を時系列で並べることが分布の整理にあたります。退職した数名について、入社からの役割の変化・担当業務の増減・組織の出来事を並べるだけでも、共通する構造が浮かぶことは多くあります。

参考文献

本稿の見方は、次の研究・実務知に多くを負っています。

  1. 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」 産業別の入職率・離職率を公表する公的統計。自社の離職水準を業界平均と比較する際の一次資料。 参照日:2026-08-28
  2. Yamanaka, M., & Nakamori, M. (2026)「Clinical Organizational Science: An Integrative Framework for Structural Intervention in Complex Organizations」Frontiers in Psychology, 17. 組織変革を「行動変容のプロジェクト」から「構造的介入の問題」へ捉え直した概念論文。本稿の調査順序(観察→仮説→介入)の理論的背景。 参照日:2026-08-28

関連して読む