外注した施策は、なぜ組織に残らないのか
外注した施策が組織に残らない理由は、実施のたびに生まれる学習が、発注先の側に蓄積されやすい構造にあります。研修の講師は、受講者の反応から何が伝わり何が伝わらなかったかを知ります。サーベイの分析者は、どの設問に偏りが出たか、どの部署の回答が不自然だったかを知ります。その知見は次の案件に生かされますが、発注した組織の手元に残るのは、報告書と実施済みという記録です。
これは外注先の落ち度ではありません。依頼された範囲の仕事を誠実に果たした結果として、学習が作業をした側に宿るのは自然なことです。問題は、発注する側が「何を社内に残すか」を決めずに依頼していることにあります。
学習が社外にある状態では、契約が終わると問いの立て方も結果の読み方も一緒に出ていきます。次の施策は、別の発注先であれ同じ発注先であれ、ほぼ同じ地点から始まることになります。効果が続かないという感触は、多くの場合、この繰り返しを指しています。
外注から得た学習は、どこに蓄積されているのか
外注から得た学習の所在は、施策の成果物ではなく、施策の前後で行われた判断の中にあります。何を問題とみなしたか、結果のどこに注目したか、何を変えると決めたか——判断をした人がどこにいたかで、学習の行き先が決まります。
ウェズリー・コーエンとダニエル・レヴィンサルは1990年の論文「Absorptive Capacity: A New Perspective on Learning and Innovation」(Administrative Science Quarterly)で、組織が外部の新しい知識の価値を見抜き、取り込み、使いこなす能力を「吸収能力」と呼び、その能力は組織がすでに持っている関連知識の水準に大きく左右されると論じました。この議論は研究開発を主な対象にしていますが、組織の課題を外部に依頼する場面にも示唆があります。受け取る側に関連する理解がなければ、外部の知見は報告書のまま棚に置かれやすくなります。
施策ごとに、次のような判断が誰の手元で行われたかを振り返ると、学習の所在が見えてきます。
- 問いの設定:何を変えたいのか、何が見えたら成功とみなすのかを、誰が言葉にしたか
- 結果の解釈:報告書の数値やコメントを、自社の文脈に照らして読んだのは誰か
- 次の判断:結果を受けて、何を変え、何を変えないと決めたのは誰か
- 記録:その判断の理由が、次の担当者が読める形で残っているか
研修の効果が職場で続かないのは、なぜか
研修の効果が職場で続かないのは、研修で学んだことが使われ続けるかどうかを決める条件の多くが、研修の場ではなく職場の側にあるためです。
ティモシー・ボールドウィンとケヴィン・フォードは1988年のレビュー論文「Transfer of Training: A Review and Directions for Future Research」(Personnel Psychology)で、研修で学んだことが職場に広がり維持されること(研修転移)に影響する要因を、受講者の特性、研修の設計、職場環境の三つに整理しました。この枠組みを用いた研究では、上司や同僚の支援、学んだことを実際に使う機会といった職場環境の要因が、転移を左右するものとして繰り返し取り上げられています。
発注先が責任を持てるのは、主に研修の設計です。受講した人が職場に戻った翌週、上司がその内容に触れるか、試す機会が業務の中にあるか、試した結果が評価や会議でどう扱われるか——これらは発注する組織にしか整えられません。研修の評判が良いのに行動が変わらないとき、研修の質を疑う前に、職場の側で何が起きているかを確かめる価値があります。
サーベイでも同じ構図があります。分析を外部に任せることはできても、結果をもとに職場で何を変えるかを決め、その変化を続けるのは組織の側です。サーベイの結果を変化につなぐ経路そのものは、「エンゲージメントサーベイで、なぜ組織は変わらないのか」で扱っています。
支援の形によって、社内に残るものはどう違うのか
社内に残るものは、支援の形によって異なります。どの形が優れているということではなく、それぞれが前提としている条件と、発注側に求められることが違います。
組織心理学者エドガー・シャインは、著書『Process Consultation』(初版1969年、第2版1988年、1999年に改訂版『Process Consultation Revisited』)で、支援の関係を専門知識やサービスを買う形、医師と患者のように外部が診断して処方する形、当事者と一緒に問題を見立てていくプロセス・コンサルテーションの三つに分けて論じました。専門知識を買う形がうまく働くには、発注する側が自分たちの必要を正しく見立て、それを正しく伝えられていることが前提になると述べています。
研修やサーベイの外注の多くは、専門知識やサービスを買う形に近いものです。この形は、発注側が問いを持っていれば効率のよい手段になります。逆に、何が問題なのかが見立てられていないまま依頼すると、成果物は届いても、それを使う理由が社内に残りません。次の表は、シャインの三つの形をもとに、社内に残るものと発注側が持つべきものを筆者が整理したものです。
| 支援の形 | 前提になること | 社内に残りやすいもの | 発注側が別に持つ必要があるもの |
|---|---|---|---|
| 専門知識・サービスの購入(研修の実施、サーベイの提供・分析など) | 発注側が必要を見立て、正しく伝えられていること | 成果物(教材・報告書・データ) | 問いの定義、結果の解釈、職場への接続 |
| 医師と患者(外部が現状を調べ、打ち手を提案する) | 診断を組織が受け入れ、実行する体制があること | 診断結果と提案 | 提案を実行し、効いたかを確かめる仕組み |
| プロセス・コンサルテーション(当事者と一緒に見立てる) | 当事者が時間を割き、見立てに参加すること | 見立て方そのもの(問いの立て方・観察の仕方) | 参加する人の時間と、続ける担い手 |
発注する側が社内に持っておくべき機能は何か
発注する側が社内に持っておくべきなのは、施策の実施能力ではなく、施策の前後を担う五つの機能です。実施そのものは外部に委ねても、この五つが社内にあれば、学習は組織の側に蓄積されていきます。
五つすべてを専任の部署として持つ必要はありません。多くの組織では、既存の会議や役割に割り当てるだけで足ります。大切なのは、それぞれの機能について「社内の誰が担うか」が決まっていることです。
- 問いの定義:この施策で何を変えたいのか、何が見えたら次の判断をするのかを、依頼の前に社内の言葉で書く
- 結果の解釈:報告書を受け取って終わりにせず、自社の出来事や現場の実感と突き合わせて読む場を持つ
- 職場への接続:研修後に上司がどう関わるか、学んだことを試す機会を業務のどこに置くかを、社内で決める
- 記録:実施日・対象・決めたこと・その後の経過・分かったことを、担当者が替わっても読める形で残す
- 終了の判断:何が起きたら外注を続けるか、やめるか、社内に移すかの基準を、始める前に置いておく
外注のやり方自体を、見直すべきなのか
効果が続かないとき、見直す対象は外注するかしないかではなく、外注の設計です。発注先を替えても、五つの機能が社内にないままであれば、同じ経過をたどる可能性が高いままです。
見直しは、依頼の範囲に「社内に残すこと」を書き込むことから始められます。たとえば、結果の解釈の会に社内の担当者が同席し、解釈の過程を共有してもらう。報告書に加えて、次回は社内で行えるよう分析の手順を引き継いでもらう。研修の設計段階で、受講後に職場で試す場面を一緒に決める。いずれも発注先に新しい負担を求める面があるため、最初の打ち合わせで相談しておくのが現実的です。
一方で、外注したまま続けてよい領域もあります。専門的な実施技術や、社内では確保しにくい中立性が必要な部分は、外部に委ねたほうが質も効率も保ちやすいからです。すべてを内製化することが答えではなく、判断と学習に関わる部分を社内に置き、実施の部分を委ねる、という線の引き方が一つの目安になります。
社内に残す機能は、どこから整えればよいのか
社内に残す機能は、これから始める施策一つを選び、その施策についてだけ五つの機能の担い手を決めるところから整えられます。すべての外注を一度に見直す必要はありません。
最初に手をつけやすいのは記録です。過去の外注について、実施日・対象・決めたこと・その後の経過を並べると、どの施策で問いが曖昧だったか、どこで職場への接続が途切れたかが見えてきます。これは社内の資料だけで進められる作業です。
並べてもなお、なぜ施策が職場に残らないのかが分からないことがあります。その場合は、施策の中身ではなく、施策が置かれている職場の構造——誰が何を決め、学んだことがどう扱われているか——を観察する段階が要ります。DroRでは、この段階を数週間〜2ヶ月の観察フェーズとして、社内の担当者と一緒に見立てる形で行っています。この見方の背景には臨床組織科学(COS)がありますが、COSは査読誌に掲載された概念論文であり、効果を実証した手法ではありません。