外部に頼むかを迷うのは、どんな局面か
外部に頼むかを迷う局面は、多くの場合、手を打っていないときではなく、手を打ったのに結果が変わらないときに訪れます。研修も制度変更もサーベイも実施した、面談も待遇の見直しもした——それでも同じことが起きるとき、経営者は施策ではなく自分たちの見立てそのものを疑い始めます。
この迷いには、向きの異なる二つの問いが同居しています。一つは「まだ自社でやれることが残っているのではないか」という問い。もう一つは「社内の目では見えないものがあるのではないか」という問いです。どちらも同時に正しいことがあり、だからこそ決めきれません。
判断を分けるのは、意欲でも予算でもありません。自社で確認できることをどこまで確認したか、確認してもなお分からない部分はどこかという、事実の側の整理です。整理が済むと、外部に頼むかどうかは選択ではなく結論に近づきます。
自社で先に確認できることは何か
外部に頼む前に自社で確認できることは、思っているより多く残っています。テーマを問わず有効なのは、出来事を解釈抜きで時系列に並べることです。誰が何を決め、いつ何を実施し、その後どうなったか——記憶ではなく記録として並べるだけで、見立ての精度は変わります。
施策が定着しないテーマでは、施策の履歴と戻り方を並べます。実施日、対象範囲、決めた人、運用が止まった時期、止まった理由として社内で説明されたこと。二度目・三度目の施策に同じ理由が並ぶなら、替えるべき対象は施策そのものではない可能性が高まります。
人が辞めるテーマでは、退職の分布——誰が・いつ・どこで辞めたか——を先に見ます。分布から何を読み取るかは「離職の原因が分からないとき、何から調べるべきか」で扱っているため、本稿では繰り返しません。ここで確かめておきたいのは、この作業が手元の人事データだけで進められる、外部を必要としない段階だという点です。
二つのテーマに共通するのは、この段階では外部の情報がほとんど要らないことです。自社の記録と、経営チームの記憶を突き合わせれば足ります。ここを飛ばして依頼すると、外部が最初に着手する作業も結局は同じ整理になり、その分の時間と費用がかかります。
- 施策の履歴:実施日/対象範囲/決めた人/運用が止まった時期/止まった理由として社内で説明されたこと
- 退職の分布:在籍年数/部署・チーム/評価や活躍の度合い/組織変更・増員との時期の重なり
- 変化の兆し:会議で誰が話さなくなったか、相談がどこへ集まっているか、悪い知らせがどの階層で止まるか
- 決めたことの行方:決定が現場の判断基準として使われているか、それとも各自の裁量に戻っているか
外部支援が役立つのは、どんな条件のときか
外部支援が役立つのは、こちらが答えを知らないからではなく、内側からは問い直しにくい前提があるときです。手段を替え続けても結果が変わらない状態は、前提が視野の外に置かれたまま議論されている状態と重なります。
クリス・アージリスは1977年の論文「Double Loop Learning in Organizations」(Harvard Business Review)で、既存の枠組みの中で手段を調整する学習と、枠組みの前提そのものを問い直す学習を区別しました。施策を打ち替え続けている状態は、前者だけが繰り返されている状態に近いことがあります。前提を問う問いは、その前提を共有している人ほど立てにくくなります。
外部支援は万能の選択肢ではなく、条件が合ったときにだけ効率のよい手段です。当てはまる条件がないなら、外部を入れずに進めたほうが速く、費用も抑えられます。
条件として整理すると、外部の目が働くのは次のような場面です。
- 手段を替え続けても結果が変わらず、前提そのものを問い直す必要があるとき
- 社内の立場や力関係のために、誰も口に出せない論点が残っているとき
- 日常の業務を続けながらでは、観察に必要な時間をまとまって確保できないとき
- 判断の材料が経営チームの記憶に依存していて、記録として残っていないとき
- 同じ論点で経営チームの見解が割れ、社内の議論だけでは決着がつかないとき
外部支援が向かないのは、どんなときか
外部支援が向かないのは、必要な判断が既に出ていて、あとは実行するだけのときです。実行を止めているのが人手や時間であれば、それは支援の問題ではなく、人員配置や外注の配分の問題になります。
既に決めた結論を外部の名前で補強したい——この形は、外部支援が空回りする典型です。結論が先にあると、観察は結論に合う材料を集める作業になり、組織の側はそれを見抜きます。DroRでも、初回相談でその構図が見えた場合には、その旨をお伝えしています。
次のような場合も、外部の組織支援より先に別の手段が要ります。
- 何をすべきかが既に決まっていて、残っているのは実行だけのとき
- 労務トラブル、法務判断、従業員個人の健康——専門の領域の判断が必要なとき(弁護士・社会保険労務士・産業医の領域)
- 資金繰りなど、短期の財務対応が最優先のとき
- 既に決めた結論を、外部の名前で補強したいとき
外部の観察では、何を確認するのか
外部の観察が見るのは、人の資質ではなく、行動が繰り返される仕組みです。会議で何が決まり何が持ち帰られるか、悪い知らせがどの階層で止まるか、誰に相談が集まっているか、決めたことがどこで判断基準として使われているか——日常のやり取りに現れるものを確かめます。
エドガー・シャインは『Process Consultation Revisited: Building the Helping Relationship』(1999年)で、支援者の役割を、答えを持ち込む専門家ではなく、当事者が自分たちで問題を診断し解決できる状態をつくる関係として整理しました。観察が報告で終わらず、当事者の見え方が変わるところまでを含めて設計する、という考え方です。
期間の目安について、DroRでは、最初から大規模な変革プロジェクトを前提とせず、数週間〜2ヶ月の観察フェーズから小さく始める選択肢を用意しています。本格的な伴走に進むかどうかは、観察で見えたものを確かめてから判断できます。
観察の結果として経営者の手元に残るのは、施策の一覧ではありません。どこに手を入れると何が動きそうか、逆にどこに手を入れても戻りそうかという、判断のための材料です。臨床組織科学(COS)はこの見方の背景にある概念的な枠組みであり、効果が実証された手法ではなく、検証に開かれた枠組みとして扱っています。
経営者は、何を判断すればよいのか
経営者が判断するのは、施策の中身ではなく二つのことです。観察にどの範囲・どのくらいの期間を使うか。そして、観察の結果として何が見えたら、何を決めるかです。
二つ目を先に決めておくことが、外部支援を空回りさせないための条件になります。「役割の重なりが原因だと分かれば、担当の再設計を四半期内に決める」「原因が特定の部署に限られると分かれば、その部署だけで先に試す」——見えたときの動き方を置いておくと、報告は意思決定に変わります。
判断の順序としては、次の五つを上から順に確かめる形になります。四つ目まで進んで初めて、外部に依頼するかどうかが具体的な問いになります。
- 自社で確認できることを、記録として並べ終えたか
- それでも分からない部分を、言葉にできるか
- 分からない部分は、前提の問い直しか、時間の不足か、専門領域の判断か
- 観察に使える範囲と期間は、どこまでか
- 何が見えたら、何を決めるか
費用対効果は、どう考えるか
費用対効果は、支援の費用と成果を直接比べるよりも、判断が遅れることの費用と並べたほうが実態に合います。組織の課題は、放置しているあいだも静かに費用を発生させ続けるからです。
人が辞め続ける状態では、採用と立ち上がりのやり直し、残った人へ移る負荷、引き継がれなかった知識が、それぞれ費用として積み上がります。金額として計算するには自社の採用単価と時間単価が要りますが、比較の枠組みとしては、支援の費用と「同じ状態がもう一年続いた場合」を並べる形になります。自社の離職水準が業界の中でどのあたりかは、厚生労働省の雇用動向調査で確かめられます。
施策が定着しないテーマでは、費用は施策そのものよりも、社内の余力の減り方として現れます。打っても変わらない経験が重なるほど、次の取り組みへの協力は得にくくなります。「もう一度やってみよう」と思える余力は、有限の資源として扱ったほうが現実的です。
本稿は具体的な金額を示しません。金額は対象範囲と期間が決まって初めて計算できるものであり、範囲が決まる前の数字は根拠を持たないからです。範囲と期間は、自社で確認できることを整理し終えてから決められます。