DOCI 2026の因果の深さ(D4)は、何を4段階に分けたのか
D4は、施策がいかにして成果を生むかの書き方を、名前だけ、一段の因果、媒介の明示、多段の因果の4段階に分けています。
DOCI 2026は、株式会社DroRと臨床組織科学研究会が2026年7月5日に公開した年次調査です。TOPIX100各社の有価証券報告書3期分(FY2023〜2025、299書類・296テキスト)の人的資本の記載を、施策の記述(D1)、方針の表明(D2)、指標との連動(D3)、構造・因果の記述(D4)の4つの観点で、それぞれ0〜3の帯に分けて評価しました。D4は「いかにして成果を生むか」の因果の仕組みが書かれているかを見る観点で、レポートは「本分析の心臓」と位置づけています(p.9)。帯2以上を「到達」と数えます。
FY2025に有価証券報告書を提出した99社のD4は、帯0が11社、帯1が48社、帯2が39社、帯3が1社で、到達は40%でした(図表11・12。AI支援の一次コーディングによる暫定値)。下の表の「書かれていること」は、DOCI確認シートの目安を要約したものです。
判定の中心は、概念の名前が出てくるかではなく、因果の語り方です。レポートは「概念語の登場回数では判定しない」とし(p.39)、迷った場合は低い方の帯をつけます(p.9・p.40)。また、D4が見ているのは、企業が文章の中で因果をどう語っているかです。語られた因果が正しいかをDOCIが確かめたものではなく、帯の高さと施策の効果や業績の因果関係を主張するものでもありません。
| 帯 | レポートの呼び方 | 書かれていること(確認シートの目安の要約) | FY2025の社数 |
|---|---|---|---|
| 帯0 | 命名のみ | 因果の記述がない、または概念の名前を挙げただけ | 11社 |
| 帯1 | 一段因果 | 「〜ため」「〜ことで」と向きは示すが、途中で何が起きるかがない | 48社 |
| 帯2 | 媒介の明示 | 途中で何が起きるか(媒介)が書かれ、XがYを生み、それがZにつながる形になっている | 39社 |
| 帯3 | 多段・自己強化 | 何段もの連鎖が輪のように閉じ、強め合う循環や、習慣として定着する仕組みまで書かれている | 1社 |
名前を挙げることと、因果を語ることは、どう違うのか
名前を挙げる文は、施策や考え方が「ある」ことを示します。因果を語る文は、それが成果に「どうつながるか」を示します。
レポートは判定の説明のために、合成した作例を示しています(p.39)。「心理的安全性を重視しています。」は概念の名前だけで帯0、「対話を増やすことで、組織が活性化すると考えています。」はX→Yの素朴な一段の因果で帯1です。同じ「心理的安全性」という言葉が何度出てきても、それが何を通じて成果につながるかが書かれていなければ、帯は上がりません。人材が大切だ、欠かせないという主張も、何がどう成果につながるかを書いていなければ、帯0の目安に入ります。
名前を挙げることと因果を語ることが一致しないことは、FY2025の結果(暫定値)にも見られます。施策の記述(D1)が帯2以上なのにD4は帯1以下の企業が58社あり、最も多い組み合わせの上位2つ(18社と17社、計35社)も、いずれもD4だけが一段低い型でした(図表13・14)。4つの観点は別々に採点されるため、施策・方針・指標を丁寧に書いても、それだけでD4は上がりません。
帯1と帯2の境目では、何が書かれているのか
境目は、施策と成果の間で、誰の何がどの場面で変わるか(媒介)が書かれているかです。
向きを示すだけなら帯1、途中の変化が書かれていれば帯2の目安です。レポートの作例(p.39)には、帯0・帯1・帯3の例はありますが、帯2の例はありません。そこで本稿では、若手社員が顧客訪問に同行する施策を例に、同じ施策を書き分けてみます。表の作例はすべて私が作った架空の文で、実在の会社の文章ではなく、DOCIの判定でもありません。帯の当てはめは、DOCI確認シートの目安とレポートの帯の定義に照らした私の読みです。作例の文を自社の開示にそのまま使うと、社内で起きていない変化を書くことになりかねません。
次の表で、帯1の3つの文は、どれも同行と提案力を結んでいますが、同行の間に何が起きるかは書かれていません。3つ目の文は数の関連も示していますが、関連があることと、途中で何が起きるかは別のことです。「提案力」は成果の名前で、それが社内のどこで見えるのかも分かりません。帯2の文では、同行した若手社員が顧客の困りごとを直接見ること、それを企画会議で報告することが間に入り、提案が出やすくなる理由が読めます。書かれた変化は、会議の記録や報告の件数のように、社内で確かめられる形をしています。
相関の扱いにも注意が要ります。本稿では、相関や統計的な関連を示すだけの記述は、途中で何が起きるかが書かれていないため帯1の目安と読みます。その関連を根拠に、施策が何を通じて効くかまで書いていれば、帯2の目安に近づきます。また、帯は一つの文ではなく箇所全体で決まります。ある文が帯1の目安でも、同じ箇所の別の文に媒介が書かれていれば、箇所全体では帯2になりえます。
| 書き方 | 架空の作例(私が作った文) | 帯の目安 | 見分けどころ |
|---|---|---|---|
| 名前・主張だけ | 「現場で学ぶ文化を大切にしています。」 | 帯0 | 何が成果につながるかの向きがない |
| 目的だけ | 「提案力を高めるため、若手社員の顧客訪問への同行を進めています。」 | 帯1 | 「〜ため」で向きは示すが、途中で何が起きるかがない |
| 向きだけ | 「若手社員の顧客訪問への同行を増やすことで、提案力の向上につなげます。」 | 帯1 | 「〜ことで」で施策と成果をつないでいるが、間が空いている |
| 関連だけ | 「同行の回数が多い部署ほど、提案の件数が多い傾向があり、同行が提案力の向上につながると考えています。」 | 帯1 | 数の関連と向きは示すが、同行が何を通じて提案を増やすかがない |
| 媒介あり | 「同行した若手社員が、顧客が作業で困っている場面を直接見て、帰社後の企画会議で報告することで、顧客の手間を減らす提案が出やすくなります。」 | 帯2 | 誰が(同行した若手社員)、どの場面で(企画会議)、何をするか(困りごとの報告)が間に入っている |
| 環が閉じる | 「同行した若手社員が顧客の困りごとを企画会議で報告し、そこから出た提案が採用されると、次の同行で何を見ればよいかがはっきりして、報告と提案がさらに増えます。同行の後に先輩と振り返る時間を設け、この流れを習慣にしています。」 | 帯3 | 成果(提案の採用)が起点(次の同行での観察)を強め、習慣として続く仕組みまで書いている |
多段の因果が少ないことは、どう読めばよいのか
帯3はFY2025に99社中1社でした。開示の文章で環が閉じる因果まで書く例は少ない、というところまでが読める範囲です。
3期296件を通じても、帯3は4件・2社です。レポートは、この高い帯の空白を、TOPIX100の開示が組織を構造として語る段階にまだないという観察の裏付けと位置づけ、空白が埋まるかを以後の年次で追跡するとしています(図表19)。この「1%」を読むときは、次の点を添えておくと誤読を防げます。
まず、全数の値であることです。DOCIはTOPIX100のうちFY2025に提出した99社をすべて数えており、一部を抜き出した標本ではありません。そのため、割合そのものの不確かさは、標本の誤差より判定の揺れが中心です。本稿の計算では、1社の判定が変わるだけで帯3は0%にも2%にもなります。帯1と帯2の間で1社が動けば、到達率は約1ポイント動きます。
次に、判定の規則です。DOCIは迷ったときに低い方の帯をつけます。帯3は環が閉じていることを求める帯なので、この規則は帯3の数を少なめに出す方向に働きえます。1%は、この基準で環が閉じていると読めた数として受け取るのが正確です。
加えて、開示と実態は同じではありません。レポートは、開示は組織の実態と等しくなく、見ているのは語り方だとしています(p.48)。組織の中に強め合う循環があっても文章に書かれていない場合も、文章に循環が書かれていても実際には回っていない場合もありえます。帯3の少なさは書き方の観察で、組織の浅さを示すものではありません。数値はAI支援の一次コーディングによる暫定値で、人による独立の評定で変わる可能性があります。
長く書けば、因果の記述は深くなるのか
長さと到達率には関係が見られますが、長いほど深いとも、最長の群で下がるとも、この社数では確かには言えません。
レポートは、FY2025の開示を文字数で4つの群に分け、D4の到達率を短い群から20%(約7千字)、44%(約11千字)、62%(約16千字)、36%(約22千字)と示しています(図表27)。そのうえで、長さは無視できない要因だが、最長の群は反落しており「長く書けば構造的」ではない、と読んでいます。レポートの「反落」は観察された値の記述で、本稿の計算は、その差がこの社数で偶然と見分けられるかを補うものです。
各群は24〜25社で、前の段落の括弧内の字数は各群の文字数の中央値です(どちらもDOCIの集計データによります)。本稿で、99社の到達か否かの印を、群による違いがないものとして、4群(社数は実際と同じ)にくじ引きのように割り振り直す計算を20万回行うと、4群の割合の違いを測る値(カイ二乗)が今回以上になったのは約2%(p値約0.02)でした。4群の違いは、偶然だけでは説明しにくい大きさです。一方、短い群から順に上がっていく傾向は、同じ並べ替えでp値約0.15で、確かめられませんでした。この傾向の検定は一方向に上がり続ける並びを捉えるもので、今回のように3番目の群まで上がって最長の群で下がる山型の並びは捉えにくい形です。p値約0.15は、長さと到達率が無関係という意味ではありません。最長の群での低下(62%から36%)も、フィッシャーの正確検定(両側)でp値約0.09で、偶然でも起こりうる大きさです。この2群は結果を見てから選んだ組なので、偶然でこの程度の差が出る見込みは、実際にはこれより高くなります。
計算の前提は、FY2025の1年分、D4の帯(暫定値)、到達か否かの2区分です。DOCIは全数を数えているため、各群の到達率そのものに標本の誤差はありません。ここで確かめたのは、到達した40社の群への偏りが、くじ引きのような割り振りでも生じる程度かどうかです。長さと到達率は同時に観察された関係で、長く書いたから深くなったとも言えません。いずれの読みでも、長さだけで帯は決まりません。確認シートも、文章が長いことは帯が高い理由にならないとしています。
| 確かめたこと | 本稿の計算 | 読み方 |
|---|---|---|
| 4群の到達率の違い | 並べ替え(20万回)によるカイ二乗検定でp値約0.02 | 偶然だけでは説明しにくい違いがある |
| 短い群から順に上がる傾向 | 並べ替えによる傾向の検定でp値約0.15 | 一方向に上がり続けるとは確かめられない(山型の並びは捉えにくい検定で、無関係という意味ではない) |
| 最長の群での低下(62%と36%) | フィッシャーの正確検定(両側)でp値約0.09 | 偶然でも起こりうる大きさ |
レポートの「因果を語らない」「あと一歩」と、本稿の読みは食い違うのか
レポートの「因果を語らない」は帯0と帯1をまとめた短い言い方で、帯の定義に照らすと「媒介までは書いていない」と読めます。
レポートは図表11で、帯0〜1の59社を「因果を語らない」とまとめています。公開ページも、施策を体系的に語りながらD4が帯1以下の企業(99社中58社、59%。暫定値)について、「なぜ効くのか」の因果を一段も掘り下げていないと書いています。一方、同じレポートは帯1を「一段の因果」と定義しており、帯1の文は施策と成果の向きを書いています。要約の言葉は、施策と成果の間の仕組み(媒介)までは語っていない、という意味で読むと、定義と合います。本稿で「媒介まで書いていない」と言い換えているのは、引用したときに「因果に一切触れていない」と読まれないためです。
レポートと公開ページの言葉を、本稿では次のように読みます。どれもレポートの記述を変えるものではなく、帯の定義と本稿の作例で補ったものです。
| レポート・公開ページの言葉 | 出典 | 本稿での読み方 |
|---|---|---|
| 帯0〜1(因果を語らない)が59社=約6割 | PDF p.11(図表11) | 帯1は一段の向きを書いている。媒介までは書いていない、と読むと帯の定義と合う |
| 「なぜ効くのか」の因果を一段も掘り下げていません(D4帯1以下) | 公開ページ(エグゼクティブサマリー) | 同じく、向きの先の途中の変化が書かれていない、という意味で読む(58社=59%で、帯0〜1の59社とは別の数) |
| 最頻の型は「D4だけが一段低い」― あと一歩は、因果の言語化 | PDF p.14(図表14) | 一歩の中身は、施策と成果の間の変化を書くこと。変化が社内で起きていなければ、言葉より先に確かめることがある |
自社の文章で媒介を書くには、どう進めればよいのか
主な施策を一つ選び、施策と成果の間で誰の何が変わるかを書き、それが社内で起きているかを担当者に確かめる順で進めます。
DOCI確認シートの観点4には、「自社の主な施策が『なぜ効くのか』を一文で書くと」という記入欄があります。2026年10月8日に公開した記入式のシート(PDF・A4 2ページ・無料・CC BY 4.0)で、この欄が、媒介を書く作業の入口になります。施策と成果の間の変化が社内で起きているかを確かめずに媒介の文だけを整えると、文章と実態の間の差が広がるおそれがあります。レポートも、上手に語れることが優れた組織であることを保証しないとし、語りと実態の差分が、組織を構造として設計し直す余地を示すと述べています(p.43)。次の順で進めると、帯1と帯2の境目を自分の文章で確かめながら、確かめられた変化だけを書けます。
- 主な施策(X)と、その施策で目指す成果(Z)を一つずつ書き出す。確認シートの観点4の記入欄を使う。
- XとZの間で、誰の、どの場面の、何が変わるか(Y)を書く。「高まる」「活性化する」のような状態の言葉で終わっていたら、その状態のときに誰が何をしているかまで書き下す。
- 書いたYが社内で実際に起きているかを、施策の担当者に確かめる。会議の記録、報告の件数、現場の声など、社内で見て分かる手がかりがあるかを聞く。
- 確かめられたYを文章に残す。確かめられなかったYは、確認シートの「ふりかえり」欄の「社内で確かめたいこと」に移す。
- 点検する箇所全体を読み直し、観点4の帯を自分で選ぶ。自分で選んだ帯は自己点検の目安で、DOCIの判定とは別のもの。DOCIの40%と並べて自社の位置を読むことはできない。
D4の結果を引用するとき、何に気をつけるか
暫定値であること、FY2025の1年分であること、書き方の評価で因果や優劣を示さないことを、数字と一緒に書いてください。
D4の結果を社内資料や記事で使うときに、添えておきたい点は次のとおりです。
- D4の帯は、AI支援の一次コーディングによる暫定値です(本文テキストの一次判定はAIで、企業名・年度は伏せていません)。人による独立評定と一致度(κ)の報告をもって確定する予定で、進め方は公開ページの記述が最新です。
- DOCIは開示の書き方を記述した調査です。語られた因果が正しいかを確かめたものではなく、帯の高さと施策の効果や業績の因果関係も主張しません。組織の実態や、企業の優劣を示すものでもありません。
- 個社ごとの判定データは公表していません。帯3の1社の名前も公表していません。
- 本稿の作例は私が作った架空の文で、帯の当てはめも本稿の読みです。DOCIの判定ではありません。本稿の並べ替えと検定の計算は、レポートにはなく本稿で行ったものです。
- レポートPDFの方法の記述のうち、企業名・年度を伏せて評価したとする箇所は改訂予定です。この点は、公開ページの記述が最新です。