制度を整えても「大切にされていない」と受け止められるのは、なぜか
制度があることと、支援されていると感じることは、別の水準で決まると考えられるためです。
よく見られるのは、次のような状況です。育児や介護との両立支援、柔軟な勤務、学習の補助といった制度を導入したものの、利用者が一部に限られている。一度使った人が、評価や周囲の負担を気にして次は使わなくなる。社内サーベイでは、会社が社員を大切にしているかを尋ねる項目だけが低いまま動かない。
こうした声を個人の性格や要求の高さとして片づけると、ずれの場所が見えなくなります。制度を整えた側には用意したという実感があり、受け取る側は、使ったときに何が起きたか、上司がどう応じたかを見ていることが多いと考えられます。そのため、同じ制度でも評価が分かれることがあります。
組織支援知覚とは、何を指す概念なのか
組織支援知覚(Perceived Organizational Support:POS)は、会社が自分の貢献を評価し、福祉を気にかけているかについての、社員の全体的な信念を指します。アイゼンバーガーらが1986年に示した概念です。
日本語では「知覚された組織的支援」と訳されることもあります(佐藤佑樹、2014、『経営行動科学』)。本稿では「組織支援知覚」と書きます。
個々の制度への満足とは異なり、会社という相手の全体についての信念である点が特徴です。似た概念との違いを表に並べます。
| 概念 | 何についての認識か | 組織支援知覚との違い |
|---|---|---|
| 組織支援知覚 | 会社が自分の貢献を評価し、福祉を気にかけているか | 会社の側の意図や姿勢についての、社員の全体的な信念 |
| 情緒的コミットメント | 自分がその会社に愛着を持ち、とどまりたいと感じるか | 社員の側の気持ちについての認識。組織支援知覚の尺度とは区別できると報告されている(ショアとテトリック、1991) |
| 職務満足 | 仕事や職務条件をどう評価しているか | 裁量の大きい職務条件の好ましさは組織支援知覚とより強く関連し、職務満足には同じ傾向が見られなかったと報告されている(アイゼンバーガーら、1997) |
| 心理的安全性 | チームの中で、対人関係のリスクを取っても安全か | チームのメンバーが共有する信念と定義されている(エドモンドソン、1999)。会社全体についての個人の信念とは単位が違う |
制度が「ある」「使える」と、支援されていると「感じる」は、どう違うのか
本稿では三つを別々のものとして扱います。制度があっても使えない場合や、使えても支援として受け取られない場合が考えられるためです。
本稿では、制度が「ある」、本人が「使える」、支援されていると「感じる」の三つの段階に分けます(順に満たされるとは限りません)。「ある」は規程に定めがあるか、「使える」は対象者が実際に利用でき、利用で不利益を受けると予想せずに済むか、「感じる」は扱われ方の全体から、会社が自分を大切にしていると本人が受け止めているかです。
この三つの段階は本稿の整理で、研究で定まった区分ではありません。近い研究に、アレンの2001年の研究があり、組織支援知覚そのものではなく、職場が家族との両立を支えているという社員の全体的な知覚を調べています。この知覚は制度の数や利用、上司の支援と関連しつつ、制度の数と上司の支援だけでは説明しきれない部分で、仕事と家庭の葛藤、職務満足、組織へのコミットメント、離職の意思と関連していました。本稿では、一つの材料が良好でも残りの二つが整っているとは見なさないことを、確かめる際の前提にします。
| 段階 | 何で確かめるか | ずれの典型 |
|---|---|---|
| ある | 規程、社内への告知、制度の一覧 | 規程はあるが、対象者が制度の存在や利用の条件を知らない |
| 使える | 利用の記録、利用者の部署や職位の偏り、申請から利用までの手続き | 利用者が特定の部署や立場に偏る。申請の手間や業務の引き継ぎの負担が大きい |
| 感じる | 本人の受け止め方(聞き取り、自由記述、サーベイ) | 利用はされているが、「使わせてもらった」という負い目として語られる |
社員は、会社の「本気」を何から読み取っているのか
社員は制度の数だけでなく、会社が自分から選んだ扱いか、使ったときにどう扱われるかから、会社の意図を読み取ると考えられています。
ローデスとアイゼンバーガーの2002年のレビューは、公正な扱い、上司からの支援、組織からの報酬と好ましい職務条件の三つが組織支援知覚と関連することを示しました。カーテシスらの2017年のメタ分析も、人事施策や作業条件などを先行要因とする理論の予測が、おおむね支持されたと報告しています。
そのうえで注目したいのが、裁量の有無です。アイゼンバーガーらの1997年の研究では、会社の裁量が大きい職務条件がどれほど好ましいかは、裁量が小さい条件に比べて、組織支援知覚とはるかに強く関連していました。アイゼンバーガーらの2020年のレビューも、主な先行要因は、会社の裁量による選択と見られるほど強く働くと整理しています。
裁量についての知見から考えると、法令で義務づけられた制度を整えるだけでは、「会社が選んだ扱い」とは受け取られにくい可能性があります。これは研究の知見を筆者が実務に当てはめた解釈で、法令への対応が不要だという意味ではありません。義務を超えて何を自社の判断で整え、その理由がどう伝わっているかが、受け止め方に影響しうるということです。
- 公正な扱い:評価や配分、その決め方に納得できるか
- 上司からの支援:直属の上司が、自分の貢献や事情をどう扱っているか
- 報酬と仕事の条件:報酬、仕事の進め方、働く条件が好ましいか
- (上の三つに共通して)会社の裁量による扱いか:会社が自分から選んだ扱いとして見えているか
制度があるのに使われない職場では、何が起きているのか
使うと評価や同僚の負担に響くと予想される職場では、制度は「あっても使えないもの」として受け止められていくと筆者は見ています。
上司の反応も、その予想を形づくると考えられます。上司の支援を扱ったアイゼンバーガーらの2002年の研究は、上司からの支援の知覚がその後の組織支援知覚の変化と結びつくこと、上司の組織内の地位が高く見られるほどその結びつきが強まることを報告しています。上司が組織と同一視される程度に応じて、上司の支援が組織支援知覚と定着に寄与することを示唆する結果です。
社員にとって上司は会社の意図を伝える存在に見えやすく、申し出たときの最初の一言、利用中の業務の分担、復帰後の評価面談での扱いが、制度がどう受け止められるかを左右すると考えられます。人事の説明と上司の反応が食い違えば、社員は上司の反応を会社の本音として読むことがあります。
同僚の負担も「使える」段階の条件です。利用者の仕事が残ったメンバーにそのまま上乗せされる設計では、使う人は気兼ねし、残るメンバーは負担を抱えるため、制度そのものが重荷になりやすいと考えられます。
支援されていると感じられないと、組織には何が表れるのか
研究では、組織支援知覚は会社への愛着や業績、離脱行動の少なさと関連してきました。支援されていると感じられない職場では、こうした面が弱まって表れやすいと考えられます。
ローデスとアイゼンバーガーの2002年のレビューでは、組織支援知覚は職務満足、情緒的コミットメント、業績、離脱行動の少なさと関連し、その関連は返礼の義務感や、会社の行為が裁量によるものだという信念などを通じて生じると説明されています。
離職については、上司の支援を扱ったアイゼンバーガーらの2002年の研究が、上司の支援と離職の負の関連を組織支援知覚が媒介するという見方と整合する結果を報告しています。ただし、これらは関連を示す研究であり、組織支援知覚を高めれば離職を防げると保証するものではありません。原因の調べ方は「離職の原因が分からないとき、何から調べるべきか」で扱っています。
支援を受けた社員が返礼の義務を感じるという説明を、「支援したのだから、その分働いてもらう」という設計に転じると、支援は貢献の要求との取引になります。返礼を無制限な義務にせず、支援を長時間労働や沈黙、無償の貢献の要求に変えないこと、見返りを前提にしていないと伝わることも、支援として受け取られるかに関わると筆者は考えます。
制度が支援として届いているかは、どう確かめればよいのか
制度を一つ選び、「ある」「使える」「感じる」を別々の材料でたどって、どの段階で途切れているかを見ます。
臨床組織科学(COS)は、組織の安定を、能動的・再帰的に再生産される動的な状態として捉える枠組みです。筆者はこの見方に立ち、知覚を直接上げようとする前に、知覚を生んでいる扱われ方を観察し、仮説を立ててから手を打ちます。ただし、COSの論文(山中・中森、2026)は理論提唱として発表されたもので、ここで示す手順も、効果が実証された診断法ではありません。
サーベイを使う場合は、尺度の出典と利用条件を確かめて項目を無断で転載せず、一項目の数値だけで判断せずに、利用の記録や聞き取りと合わせて読みます。
選ぶ制度は、対象者がある程度いて関心も高いものにします。法令で求められた制度より自社の判断で設けた制度を選ぶほうが、会社の意図の受け取られ方を見やすいと考えられます。聞き取りは相手の評価に関わらない人が行い、誰の発言かが上司に伝わらない形にすると、使わなかった理由が語られやすくなります。次の順に見ていきます。
- ある:規程と告知を確かめ、対象者が制度と利用の条件を知っているかを数人に聞く
- 使える:利用記録を部署・職位・時期で並べ、偏りと、利用後に業務の分担や評価で何が起きたかを見る
- 感じる:使った人と使わなかった人の両方に、使うかどうかを決めたときに何を考えたかを聞く
- 途切れた段階を特定する:制度は知られているのに利用が一部の部署に偏っていれば「使える」で、利用はあっても負い目として語られれば「感じる」で途切れていると見る
制度を足す前に、何を整えればよいのか
新しい制度を足す前に、既にある制度の一つで、使ったときに何が起きるかを確かめるところから始めます。
途切れている場所が見つかれば、そこから整えます。上司とは、制度の説明に加えて、申し出を受けたときの応じ方を話し合っておくと、人事の説明との食い違いを減らしやすくなります。使える条件が整わないまま制度を足すと、「制度はあるが使えない会社」という読まれ方を強めるおそれがあります。使っても不利益にならないと分かったうえで足された制度のほうが、会社が自分から選んだ支援として受け取られやすいと筆者は考えます。制度を増やすこと自体を否定するものではありません。