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組織と経営

離職を採用で埋め続けると、何が起きるのか

退職が出るたびに求人を出し、欠員を埋めて回す——この対応は一つひとつは合理的でも、続けるうちに組織の中身を少しずつ入れ替えていきます。人数は戻っても、辞めた人が持っていた判断の文脈や関係は戻らず、残った人の負荷と採用の負担が積み上がるためです。本稿では、補充で回す構造が組織に残すものを整理し、外部の支援を入れるなら何を任せ、何を自社に残すべきかの切り分け方を考えます。

退職を採用で埋める対応は、なぜ続いてしまうのか

補充で回す対応が続くのは、それぞれの判断が、その時点では最も確実に見えるからです。欠員が出れば業務が止まり、顧客や取引先への影響がすぐに現れます。求人を出して人数を戻すことは、目の前の穴を塞ぐ手段として分かりやすく、社内にも説明しやすい対応です。

一方で、この対応には費用の見え方の偏りがあります。求人広告や紹介手数料は請求書として現れますが、辞めた人と一緒に出ていったもの、残った人に移った負荷、新しい人が力を出せるようになるまでの時間は、どこにも計上されません。見える費用だけで比べると、補充はいつも妥当な出費に見えます。

補充が繰り返されるうちに、退職の報告から求人の決定までが定型の手続きになっていきます。手続きが滑らかになるほど、「なぜこの場所で辞めるのか」を話し合う機会は減ります。採用で埋め続ける状態は、採用の問題というより、原因を問う場が組織から消えていく過程でもあります。

補充で回す状態は、組織に何を残していくのか

補充で回す状態が組織に残すのは、欠員ではなく、少しずつ薄くなった中身です。人員の表では元に戻っていても、入れ替わりのたびに目減りしていくものがあります。

WalshとUngsonは1991年の論文「Organizational Memory」(Academy of Management Review)で、組織の記憶が個人・文化・手順・構造などに分かれて保持されると整理しました。個人の中にだけ保持されていた記憶は、その人の退職とともに組織から離れます。補充で人数を戻しても、新しい人が持ち込むのはその人のスキルであり、前任者が抱えていた記憶ではありません。

DessとShawは2001年の論文(Academy of Management Review)で、自発的な離職と組織の業績の関係を、採用や育成の費用だけでなく、組織の内外に張られた関係の網——社会関係資本——が失われるという観点から捉える視点を提示しました。誰に聞けば話が早いか、誰と誰が信頼で結ばれているか。こうした関係は、求人では補えない種類の資産です。

目減りしていくものを具体的に挙げると、次の四つになります。

  • 判断の文脈:「なぜこのやり方なのか」という理由が、手順だけを残して抜け落ちる
  • 関係の網:顧客や他部署との信頼、相談の近道が、人と一緒に組織の外へ出ていく
  • 教える側の余力:受け入れと引き継ぎが同じ少数に集まり、その人たちの本来の仕事が削られる
  • 採用の目的:事業を伸ばすための採用が、欠員を埋めるための採用に押し出されていく

外から採った人で埋めることには、どんな限界があるのか

外部から採用した人で欠員を埋めることには、採用の費用とは別に、力を発揮できるまでの時間という限界があります。前任者の役割を引き継ぐには、その組織に固有の知識と、周囲からの信頼の両方が要るからです。

Bidwellは2011年の論文「Paying More to Get Less」(Administrative Science Quarterly)で、米国の投資銀行部門の人事データを用い、同種の職務に外部から採用された人と、社内から昇進した人を比べました。外部採用者は経験や学歴の指標が高く、当初の給与も高い一方で、入職後しばらくの業績評価は昇進者を下回り、退職率も高いという結果でした。Bidwellはこれを、その組織に固有のスキルと、雇う側・雇われる側の互いについての情報の不完全さから説明しています。

一つの企業のデータであり、そのまま一般化はできません。ただ、欠員を外部採用で埋めることが、人数の回復と引き換えに、固有の知識をもう一度つくり直す期間を抱え込む選択であることは示唆しています。入社後の受け入れの設計については、「中途採用が立ち上がらないのは、なぜか」で扱っています。

もう一つ、退職は一人ずつ独立して起きるわけではありません。Felpsらは2009年の論文「Turnover Contagion」(Academy of Management Journal)で、同僚が職場にどれだけ根づいているか(ジョブ・エンベデッドネス)や、同僚の転職活動の様子が、本人の退職を説明する要因になることを示しました。補充した人が加わる職場で周囲が既に外へ目を向けているなら、新しい人もその空気の中で働き始めることになります。

採用強化が限界に来たことは、何で分かるのか

限界は、採用の数が足りなくなることよりも先に、同じことの繰り返しとして現れます。採用の担当者が力を尽くすほど業務は回ってしまうため、限界は採用の側からは見えにくいものです。

次のような兆しが二つ以上重なっているなら、採用をさらに強化するより、補充で回している構造そのものを見直す段階にあると考えられます。

  • 補充した人が、前任者と同じ部署・同じ役割で、似た時期に辞めていく
  • 受け入れと引き継ぎを担う人が毎回同じで、その人たちから疲れの声が出ている
  • 引き継ぎの資料を、退職のたびに一から作り直している
  • 採用の基準が、仕事の中身よりも「辞めなさそうか」に寄っていく
  • 退職の報告を受けたその場で、原因の話をせずに求人の相談に入っている

外部の支援には、どんな形があり、何を任せられるのか

外部の支援は、形によって任せられる範囲が異なります。支援の形ごとの得意・不得意の全体像は「組織課題の相談先はどう選ぶか」で整理しています。ここでは、離職を採用で埋め続けている状況に絞って、任せる範囲と自社に残す範囲を見ます。

採用の強化でしのいできた組織では、採用の実務を外へ出すことは既に進んでいることが多いはずです。そのうえで次に問うべきは、補充で回す構造を見直す部分を、誰がどこまで担うかです。

支援の形任せやすい範囲自社に残る部分
人材紹介・採用代行候補者を集めること、日程の調整、書類選考などの実務誰を、なぜ採るのかという要件の定義と、入社後の受け入れ
組織コンサルティング・組織開発利害から離れた立場での構造の観察、論点の整理、対話の場づくり補充した人が同じ場所でまた辞めるという循環を、どこで止めるかの判断と、その後の運用
社会保険労務士・弁護士・産業医労務・法務・健康に関する専門の判断専門家の判断を踏まえた、組織としての方針

構造の観察は、なぜ外部の目が働きやすいのか

補充で回す状態から抜けるうえで要になるのは、組織コンサルティングや組織開発が担う「構造の観察」です。退職と補充の繰り返しの中で、誰に負荷が集まり、どこで判断の文脈が途切れ、どの関係が細っているのか——当事者が日常業務を続けながら確かめるのは難しく、社内の立場によっては口にしにくい論点も含まれます。

観察の対象は、個人の意欲や相性ではありません。辞めた人が担っていた仕事が、その後どこへ流れたか。補充した人は、最初の数ヶ月を誰に教わって過ごしたか。退職の前後で、会議での発言や相談の行き先がどう変わったか。事実として確かめられるものを並べることで、補充で回す構造の輪郭が見えてきます。

自社に残すべきなのは、どの部分なのか

自社に残すべきなのは、支援が終わったあとも組織の中で使われ続けるもの——判断の基準と、それを運用する関係です。ここを外部に預けると、支援の終了とともに基準が組織の外へ出ていきます。人が辞めるたびに文脈が失われる構造を、外部との契約という形で繰り返すことになります。

具体的には、次の四つは外部に任せきりにせず、自社の人が担う形にしておくことをおすすめします。外部はその作業に伴走し、問いを立て、振り返りの場を支えることはできますが、持ち主にはなれません。

外部の報告書は、この四つの材料にはなりますが、代わりにはなりません。報告を受け取ったあとに、それぞれが社内の誰の仕事になるかを、支援の範囲を決める段階で決めておくことが、外部支援を組織に残る形で終える条件です。

  • 判断基準の言語化:「この場面ではなぜこう判断するのか」を、自社の言葉で書き残す作業
  • 役割と負荷の再配分:誰から何を外し、誰に何を渡すかという決定
  • 残っている人との対話:負荷を担ってきた人に、何を変えるのかを直接伝え、話を聞くこと
  • 採用の要件定義:欠員の穴埋めではなく、組織がこの先に必要とする役割から逆算した「誰を採るか」

外部支援の範囲は、どう区切れば空回りしないのか

範囲の区切り方として実務的なのは、「観察」と「実行」を分け、観察には期間の区切りを置くことです。観察は外部が主に担い、実行は自社が主に担う。この線を先に引いておくと、外部に何を期待するのかが具体的になります。

採用を止める必要はありません。業務を回すための補充は続けながら、並行して観察を進めるのが現実的です。その際、補充した人をどの場所に、誰の受け入れで配置するかも観察の対象に含めておくと、同じ場所で同じことが起きるかどうかを確かめられます。

DroRでは、この観察の部分を数週間〜2ヶ月の観察フェーズとして切り出し、大きな変革の契約を前提にせずに始められる形にしています。見えたものをもとに、再設計を自社で進めるか、伴走を続けるかを判断できます。臨床組織科学(COS)はこの観察の背景にある概念的な枠組みであり、効果の実証された手法としてではなく、検証に開かれた見方として扱っています。

反対に、DroRが合わない場合もあります。採用の実務だけを任せたい場合、内容の決まった研修をすぐに実施したい場合、労務トラブルや従業員の健康への対応が先に必要な場合は、採用支援・研修・社会保険労務士や産業医といった、それぞれの担い手のほうが適しています。

どの形の支援を選ぶ場合でも、始める前に次の四点を決めておくと、範囲が曖昧なまま支援が広がることを防げます。

  • 観察の範囲:どの部署・どの役割を、どのくらいの期間見るか
  • 社内の窓口:観察に同席し、事実の確認に応じる担当者は誰か
  • 判断の置き場所:観察の結果として何が見えたら、何を決めるか
  • 実行の持ち主:再設計を社内で進める責任者は誰か

よくある質問

採用を止めて、先に構造を見直すべきですか。
止める必要はありません。業務を回すための補充は続けながら、並行して構造を観察するのが現実的です。補充した人を配置する場所と受け入れの担い手を観察の対象に含めると、同じ場所で同じことが繰り返されているかを確かめられます。
人材紹介や採用代行を増やせば、状況は改善しますか。
採用の実務の負担は軽くなります。ただし、辞める理由が組織の側にある場合、採用の効率を上げても入れ替わりの速さは変わりません。誰をなぜ採るかの定義と、入社後の受け入れは、自社に残る仕事です。
組織の立て直しを、外部に丸ごと任せてはいけないのですか。
観察や論点の整理は任せられますが、判断基準の言語化や役割の再配分まで外部が持つと、支援の終了とともに基準も組織の外へ出ていきます。人が辞めるたびに文脈が失われる状態を契約の形で繰り返さないよう、実行の持ち主は社内に置くことをおすすめします。
退職者に引き継ぎを徹底してもらえば、知識の流出は防げますか。
手順として書ける部分は残せますが、判断の理由や相談の経路は、退職が決まってからの引き継ぎでは移りにくいものです。平時から、繰り返し出てくる判断について理由を書き残し、相談の行き先を複数の人に分けておくほうが、流出を小さくできます。
離職率が業界の平均と同じくらいなら、補充で回しても問題ありませんか。
率だけでは判断できません。産業別の離職率は厚生労働省の雇用動向調査で確かめられますが、構造の問題を映すのは、どこで・誰が辞めているかの偏りです。率が平均並みでも、補充した人が同じ場所で辞め続けているなら、見直しが必要なサインです。
外部支援には、どのくらいの期間を見込めばよいですか。
観察の部分は、範囲によりますが数週間〜2ヶ月が目安です。DroRでは、大きな変革を前提にせず、この観察から始める形を用意しています。その後の再設計は、実行の持ち主を自社に置いたうえで外部が伴走する形が、支援の成果を組織に残すうえで現実的です。本格的な伴走を行う場合は、6ヶ月以上を目安にしています。

この悩みを、相談として持ち込むなら

採用でしのぐ期間が長くなるほど、どこから手をつけるかを社内で決めにくくなります。外部に何を任せるかを整理している段階でも、初回相談をご利用いただけます。

  • 退職と補充が、どの部署で、どのくらいの間隔で繰り返されているかを、手元の人事データで分かる範囲で伺います。
  • 外部に任せる部分と自社に残す部分の線引きを、一緒に整理します。数週間〜2ヶ月の観察から小さく始める選択肢があります。
  • 採用実務の代行や労務対応など、DroRが担う範囲の外だと判断した場合は、その旨をお伝えします。初回はヒアリングが中心で、売り込みはいたしません(初回相談は無料です)。

事例:優秀な人から辞めていった会社が、人が辞めない組織になるまで 抜けた穴を採用で埋め続け、採用費が膨らんでいた会社が、人が辞める構造から立て直した記録です。

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参考文献

本稿の見方は、次の研究・実務知に多くを負っています。

  1. Walsh, J. P., & Ungson, G. R. (1991)「Organizational Memory」Academy of Management Review, 16(1), 57–91. 組織の記憶が個人・文化・手順・構造などに分かれて保持されるとした古典的論文。退職によって個人に宿っていた記憶が失われるという本稿の視点の背景。 参照日:2026-09-24
  2. Dess, G. G., & Shaw, J. D. (2001)「Voluntary Turnover, Social Capital, and Organizational Performance」Academy of Management Review, 26(3), 446–456. 自発的離職と組織業績の関係を、費用や人的資本に加えて社会関係資本の観点から捉える視点を提示した論文。 参照日:2026-09-24
  3. Bidwell, M. (2011)「Paying More to Get Less: The Effects of External Hiring versus Internal Mobility」Administrative Science Quarterly, 56(3), 369–407. 同種の職務における外部採用者と社内昇進者の給与・業績・退職を比較した実証研究(米国の一企業の投資銀行部門のデータ)。 参照日:2026-09-24
  4. Felps, W., Mitchell, T. R., Hekman, D. R., Lee, T. W., Holtom, B. C., & Harman, W. S. (2009)「Turnover Contagion: How Coworkers' Job Embeddedness and Job Search Behaviors Influence Quitting」Academy of Management Journal, 52(3), 545–561. 同僚のジョブ・エンベデッドネスと転職活動が、個人の自発的退職を説明する要因になることを示した実証研究。 参照日:2026-09-24
  5. 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」 産業別の入職率・離職率を公表する公的統計。自社の離職水準を業界の水準と比べる際の一次資料。 参照日:2026-09-24
  6. Yamanaka, M., & Nakamori, M. (2026)「Clinical Organizational Science: An Integrative Framework for Structural Intervention in Complex Organizations」Frontiers in Psychology, 17. 組織を構造から捉える枠組みを提示した概念論文(Conceptual Analysis)。本稿の観察の考え方の理論的背景。 参照日:2026-09-24

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